InDesignにおける引用符の謎の挙動についての文字コード的なまとめ

  • 引用符が全角かプロポーショナルかは、フォントによって異なる。Adobe-Japan1-5以降のCMapを採用しているフォントなら(レパートリはAdobe-Japan1-5でなくても)プロポーショナル、そうでなければ全角である。下図のリュウミンでは、Proが全角、Pr5がプロポーショナル。グレー地は文字幅、枠の下の数字はCIDを示す。


  • InDesignで引用符を縦組みにすると、全角のものは縦用グリフに置換されるが、プロポーショナルのものは置換されず、回転もしない。以下の図では、H:横組み=グレー地、V:縦組み=水色地とする。また、InDesignの設定はすべて「文字組み:なし」「CIDベースの文字組みを使用:オン」。


  • 引用符はUnicodeでU+2018、U+2019、U+201C、U+201Dだが、InDesignは縦組みの際、これらを全角(和文属性)の文字だと想定して(古いCMapを想定して)処理しているようだ。
  • 縦組み置換テーブルは「CID対CID」で定義されており、引用符のプロポーショナル・グリフであるCID=98、96、108、122はこのテーブルに入っていないため、InDesignの場合、「全角グリフだと見なして縦組み置換テーブルを参照したら該当するものがなかったので、回転も置換もされないまま」となってしまうのだろう。
  • プロポーショナルの引用符を縦組みにした場合、「縦用グリフに置換」と「プロポーショナルのままで90度回転」のどちらが望ましいかは文脈によって異なってくるだろうが、単純にフォントの仕様としては、「90度回転」のほうがデフォルトの動作であると思われる。


  • プロポーショナルの引用符を縦用グリフにするためには、'fwid'(等幅全角字形)タグを付けて全角グリフにした上で縦組みにすればよい(順序は逆でも可)。


  • ところがシングル引用符の場合、字形パレットをダブルクリックして等幅全角グリフに切り換えた場合、縦組みにしても縦用グリフにならない。字形パレットをダブルクリックした瞬間に、別の文字に置き換わってしまうからである。
  • Adobe-Japan1-5以降のCMapでは、CID=98は、左シングル引用符(U+2018 LEFT SINGLE QUOTATION MARK)だけでなく、調整文字コンマ(U+02BB MODIFIER LETTER TURNED COMMA)にも対応している。また、CID=96は、右シングル引用符(U+2019 RIGHT SINGLE QUOTATION MARK)だけでなく、調整文字アポストロフィ(U+02BC MODIFIER LETTER APOSTROPHE)にも対応している。
  • InDesignは、U+02BB(調整文字コンマ)とU+02BC(調整文字アポストロフィ)についてはプロポーショナル(欧文属性)の文字として処理するので、縦組みでは90度回転するし、縦組みで'fwid'(等幅全角字形)タグを適用しても(全角グリフになるだけで)「引用符の縦用グリフ」にはならない(下図)。


  • 1つのCIDに2つ以上の符号位置が対応する例において、InDesignの字形パレットの情報では、1つの符号位置しか表示されない。何らかの単純なルール(たとえば「Unicode値の小さい方」とか)に従って適当に「代表」を選んでいるものと思われる(この話は、詳しくは後日)。
  • インプット・メソッドで「かっこ」などと打ち込んでシングル引用符を入力したとき、起こしの側はU+2018(CID=98)だが、それを全角グリフにするために字形パレットのCID=670にダブルクリックで切り換えると、その時点で符号位置はU+02BB(調整文字コンマ)に変化するため、これを縦組みにしても縦用グリフに置換されない。一方、字形パレットのメニューからU+2018に'fwid'(等幅全角字形)タグを適用した場合、符号位置はU+2018(左シングル引用符)のままなので、縦組みにすれば縦用グリフに置換される。
  • Unicodeの「CJK記号と句読点」ブロックには、横組みでチョンチョン形の引用符(ダブルミニュート)がある。起こしのU+301Dを左右反転した形の受けの引用符U+301Eに相当するのがCID=12170だが、両者の間にマッピングはない。これは、(横組みにおける)「左上と右上で挟む」ペアと「左上と右下で挟む」ペアの起こしの括弧を共通のデザインにするのは無理という判断から、不揃いのペアが使われるのを回避するための措置だろう。下図は小塚明朝と繁体字用のAdobe Ming。括弧内のCIDはAdobe-CNS1のもの。


  • 縦組みでチョンチョン形の引用符には、符号的には3種類の表現方法があることになるが、Unicodeの符号位置でストレートに表すことのできるU+301DとU+301Fのペアが最も安定している。一方、横組みにおけるチョンチョン形の引用符は、見た目で使い分ければよいが、Unicodeとのマッピングを持たないCID=12169とCID=12170は、InDesignでは共通の仮の親字(リュウミンPro/Pr5ならU+FF02)を用いて'aalt'タグで表現されるため、禁則処理に難があり、注意深く扱う必要がある。