InDesignにおけるシングル引用符の縦組み

  • 前回のエントリで取り上げた二重引用符の問題すべてを、シングル引用符は共有している。加えてシングル引用符には「UnicodeとCIDの2対1マッピング」という要素があり、事態をさらに複雑にしている。
  • リュウミンProのようにAdobe-Japan1-4以前のcmapを採用しているフォントでは、シングル引用符における符号位置とCIDの対応は、二重引用符と同様、1対1だった。また、符号位置と直接対応するのは、全角グリフだった(下図)。


  • リュウミンPr5またはPr6のようなAdobe-Japan1-5以降のフォントでは、符号位置と直接対応するのはプロポーショナル・グリフとなり(ここまでは二重引用符も同じ)、さらに調整文字(modifier letter)からCID+98、CID+96へのマッピングが追加された(下図)。


  • この結果、見た目は同じCID+98であっても、「符号位置が左シングル引用符(U+2018 LEFT SINGLE QUOTATION MARK)のCID+98」と「符号位置が調整文字コンマ(U+02BB MODIFIER LETTER TURNED COMMA)*1のCID+98」が存在することとなった。そして、この2種類のCID+98では、縦組みにおける回転など、Unicodeベースの挙動が異なってくる。CID+96についても同様。
  • 日本語組版において調整文字コンマや調整文字アポストロフィを使いたいというケースはあまりないだろう。インプット・メソッドで「かっこ」などを変換して入力できるのも、もちろんシングル引用符(U+2018/U+2019)である。ところがややこしいことに、InDesignの字形パネルをダブルクリックすることで入力できるのは、調整文字コンマや調整文字アポストロフィであって、シングル引用符(U+2018/U+2019)ではない。
  • Unicode to CIDで「2対1」のマッピングは、当然だがCID to Unicodeでは「1対2」となる。このような場合、字形パネルのようなCIDベースのツールからの入力では、2つの符号位置のうちいずれか一方が自動的に選択される。InDesignの字形パネルでは、おそらくある程度機械的なロジックに従った結果、たまたま標準的ではないほうの(シングル引用符ではないほうの)符号位置が選ばれているのだろう(下図)。


  • そのようなわけで、InDesignのドキュメント中でU+2018/U+2019(シングル引用符)とU+02BB/U+02BC(調整文字)が混在するという事態は、決して珍しいことではない。
  • リュウミンPr5/Pr6で、プロポーショナルのCID+98/CID+96、全角のCID+670/CID+671を縦組みにした場合の挙動を、下図にまとめた。Unicodeにおける調整文字(緑字)は、縦組みで90度回転する(緑地)。Unicodeにおけるシングル引用符のプロポーショナル・グリフは、回転するべきだが、回転しない(黄色地)。Unicodeにおけるシングル引用符の全角グリフは、縦組み用のグリフ(CID+12173/CID+12174)に置換される。


  • 次に、リュウミンPro(Adobe-Japan1-4以前のcmapを採用しているフォント)の例を挙げておく(下図)。調整文字が関与しない点でシンプルだが、それでも問題がある(黄色地)のは、前回のエントリで述べたとおり。

*1:日本語でどのように呼ぶのが適切なのかわからないので、とりあえず直訳風に「調整文字コンマ」としておく。「調整文字アポストロフィ」についても同様。