IVSは今すぐ使えるの?
- ゴホゴホ。なんですか? IVS? また新しいオモチャですか。
- でもそういうのって、実際に使えるようになるのは、ずいぶん先なんでしょ?
- いや。それが今すぐにでも使えるんだな。
- わざわざそんなよくわからないものを使いたがる人なんています?
- MacはシステムレベルでAdobe-Japan1-5をサポートしているよね。でも、AppleのAPIを使ってグリフ置換を行うアプリ*1とAdobeアプリの間には断絶があって、異体字情報を交換することができなかった。それが、IVSを使えば、たとえばJedit Xで編集したテキストの異体字情報を、そのままInDesignに持っていくことができる*2。そういう意味では、すぐに使いたいという人はいると思うよ。
- 用途は、むずかしい人名とか?
- 別に人名異体字に限らず、たとえば原稿中に「謎」って文字があったとするじゃん。この字は二点しんにょうの形で去年常用漢字に入ったから、その形で出力したい。そんなときは、IVSを利用すれば、文章の書き手がエディタでグリフを制御できるわけだよ。そしたら、ほら、きみたちデザイナーの手間も減るし。
- それはいいかもしれませんね。
- といっても、もちろんその後の工程で使われるフォントがIVSに対応してなきゃダメなんだけどね。
- 今のところ、どれくらいのフォントが対応しているんですか?
- DTPで使われるフォントとしては、小塚のPr6N、イワタのPr6/Pr6N、Lionに搭載されているヒラギノのProNあたり。あと、リリースされたばかりの游明朝体のPr6/Pr6N Rも対応しているらしいぞ。
- す、少ないかも……。
- うん。
- それ以外のフォントじゃ化けちゃうんですよね?
- 化けるっていうか、VS(異体字選択子)が無視されるだけだから、たとえばさっきの「謎」が一点しんにょうで表示されるか二点しんにょうで表示されるかはフォント次第。一点しんにょうになってたら、そのときは赤字を入れて直してもらえばいいんだよ。直したとしても、それは以前の仕事の流れと同じでしょ。IVSで二点しんにょうを指示しておけば、少なくとも「校正で二点しんにょうに直す必要が生じる確率」は減るわけだからさ。そういう意味では、対応フォントが使われることを期待してIVSを試してみてもいいんじゃないの。
- はあ。
- とか考えるオッチョコチョイがいるかもしれないじゃないですか。
- え、ダメなんですか? ゴホゴホ。
- VSってのは見えないからね。「見えない文字」を他人に黙って送りつけるのは、基本的にやめたほうがいいよね。ほら、そういうのって、封筒にカミソリの刃を入れて送りつけたりするのと似てるよね。
- まったく似てませんけどね。
- 特にInDesignの場合、IVSを親字とVSの2文字として扱っちゃうので、異体字属性が伝染するような事故も起こりうるし。VSが付いていることを知らずにOpenTypeのタグを適用したりすると、わけのわからないことになるし。
- なーんだ、結局「使うな」って結論ですか。
- 使うつもりがなくても、向こうから来るかもしれないってことだよ。
- あのー。そういえばちょっと思い当たることがあるんですけど。ゴホゴホ。
- ブタインフルエンザが流行ってるから、気をつけてね。
- ブタインフルエンザは流行ってませんけどね。ゴホゴホ。もしかして、こないだ送ってくれた原稿に、黙ってIVS入れてたりします?
- いや、えーっと、ゴホゴホゴホゴホ。