昔のグリフで出ています
- 今日はWindows 8のMS明朝における122字のIVS実装について説明しようと思ってたんだけど……。
- 気が変わったんですか?
- 話が長くなりそうなんで、詳しいことは後日に回して、今回は説明のカギになる「MS122」という文字集合に焦点を絞って語ってみようかと。
- 「MS122」ですか? トラック野郎が荷台に貼ってるお茶目なステッカーの「人妻110」と、ちょっとだけ似てますね。
- あー、こないだそれ貼ってるトラック見た見た! 正確には「美人妻110番の車」な。って、「MS122」と、ひとかけらも似てないだろが!
- まさかのノリツッコミ。
- まず、基本を押さえておくとWindows Vistaでは……
- 強引な軌道修正。
- ……JIS X 0213:2004の例示にあわせる方向で、MS明朝の字形を変更したわけだ。
- はいはい。それが122字だったんですね?
- まあ、落ち着こうぜ。変更された字は、漢字だけでも200字以上あるぞ(下図)。
- こんなに変えてるんだー。
- で、MS122は、その部分集合の(黒い字で示した)122字。
- つまりその、「MS122」って何なんですか?
- 「昔のグリフに戻せる字」かな。
- トラック野郎だけに、演歌テイストが入ってきました。
- トラックから離れようか。むしろ、地方自治体の職員になってみよう。そこできみは、XPのMS明朝をベースに「二点しんにょうの辻」を外字登録した上で、デフォルトの「一点しんにょうの辻」と区別して運用していたとしよう。
- していたとしましょう。
- そういうユーザの場合、OSをアップデートすることでデフォルトのグリフが「二点しんにょうの辻」に変わっちゃったら困るでしょ?
- 困ったー。
- だから、MicrosoftはVista以降でもXP以前のグリフを表示できるように、OpenTypeのjp90タグ、それから「JIS90互換フォントパッケージ」という2種類の手段を用意したわけだ。これらの手段によって昔のグリフに戻せる字の集合が、MS122。
- なるほど。
- MS122は、「Vistaで変更された字」みたいに説明されることがあるけど、正しくは「変更された字のうち戻せる字」ね。
- はいはい。ところで、さっきVistaのMS明朝で変更された漢字が200字以上って言いましたよね?
- うん。
- でも、Vistaの変更って、JIS04(JIS X 0213:2004)の変更に追随するためのものじゃないんですか? JIS04が変更したのって、168字だけですよね?
- 「JIS04の変更に追随するため」っていうのは、Vistaの変更の一面に過ぎないぞ。でも、その一面がクローズアップされることが多いのは確かだな。
- どうしてですか?
- そりゃあ、ウリのMS122は、ほとんどがここの話だから。図で見ると、こんなかんじ。黒い字がMS122ね。
- んー。「喩」だけはJIS04の変更分じゃないけどMS122に含まれるってことですか?
- そうそう。
- Vistaで変更された字が200以上あるなかで、「昔のグリフに戻せる字」であるMS122に入れてもらえるかどうかは、どんな基準で決まるんですか?
- 要するに、印刷標準字体または簡易慣用字体のヴァリアントが表外漢字字体表の基準で字体差となる例についてはサポートするってことかな。まあ、デザイン差の例も部分的にはサポートされてるんだけどね。
- ん? たったいま、やさしく説明しようとする姿勢をぐしゃっと丸めてゴミ箱に叩き込みましたよね?
- いやいや、つまり、何に戻せるかというと「印刷標準字体または簡易慣用字体の異体字」にしか戻せないんだよ。「喩」は「JIS04で変更された字」ではないけど、「Vistaで印刷標準字体に変更された字」だからMS122に入ってるってこと。
- そのMS122の「印刷標準字体または簡易慣用字体の異体字」縛りには、どういう意味があるんですか?
- まあ、「JIS04で変更された字」じゃないとjp90タグでサポートできないしさ。
- え? でも「喩」は「JIS04で変更された字」ではないんですよね?
- うん。
- じゃあ、「喩」はjp90タグではサポートできないんですよね?
- ホントはそうなんだけど、そこはほら、俺様仕様で……っていう話はややこしいから後日にしようか。というわけで、今日話したことを1つの図にまとめると、こんなかんじ。
- うーん。今日はちょっとわかりにくい話でしたねー。ところで思ったんですけど、このあたりの仕様を決めた人って、荷台に「最大積載量:俺が決める!」ステッカーも貼ってますよね。
- 貼ってるね。