MS書体の字形変更でダメージを受けるのは誰か

  • Windows Vistaにおける字形の変更が話題となっているが、これをInDesign CS2などが提供しているグリフ置換機能と結びつけた論点はまだ出ていない気がするので、軽くメモ。
  • WindowsUnicode)は、しんにょうの点の数を区別しない体系である。だからこそWindows Vistaでは「辻」の字体を一点しんにょうから二点しんにょうへと変更することが可能だったと言えるだろう。
  • 一方、Adobe-Japan1-xは、しんにょうの点の数を区別する体系であり、一点しんにょうの「辻」は、常に一点しんにょうである必要がある。
  • Adobe-Japan1-xではグリフはユニークな番号(CID)が振られている。しかし、たとえばInDesign CS2の場合、グリフの識別には基本的にはUnicodeの符号値が用いられ、それでは表現できないグリフに関してのみ別の表現方法が用いられる。つまり、InDesign CS2は「一点しんにょうの辻」を表現する際、単にU+8FBBを使っている。
  • このような仕組みが有効に機能するためには、Unicodeの符号値に対応するグリフにブレがないことが前提となる。InDesign CS2にとってU+8FBBのデフォルトのグリフは、「一点しんにょうの辻」でなければならないのだ。
  • もちろん、JIS的にもUnicode的にも、しんにょうの点の数の違いは包摂の範囲内であり、どちらに設計しても規格適合性に問題はない。それでもこれまでは、ほとんどの明朝体・ゴシック体のフォントは、U+8FBBを一点しんにょうで設計してきた。
  • そのような慣習が変わらないことへの期待の上に成り立ったInDesign CS2のグリフ置換の仕組みは、もともと脆弱性を内包していたと考えることもできる。しかし一方で、OpenTypeの開発においてAdobeのパートナーであったMicrosoftがなぜこんな変更を、と思わないでもない。
  • InDesign CS2でMS書体を使う人は珍しいだろうし、すぐに大きな混乱が生じるということではないかもしれないが、今後、フォント・メーカーなどはどのような選択をしていくのだろう。