この「邉」を作ったのは誰だぁ!!

  • Unicode IVS/IVD入門』(田丸健三郎、小林龍生)のなかで、目玉がWindows 8のIVS対応を紹介している第2章だとするなら、背骨といえるのが、IVSという枠組み自体について解説している第5章だよね。
  • たとえがしっくりきませんが、こだわらずに先に進みましょう。
  • その第5章のなかでも、IVSの基本中の基本をわずか1行に凝縮して視覚化しているのが、図5-7だ。
  • はいはい。
  • で、今日は図5-7に突っ込んでみようと。
  • もちろん、突っ込みますよー!
  • あのさ、そういうテンションいらないから。この図なんだけど、どう?

  • んー、解説抜きで見せられても、ちょっと難しいですね。
  • いや、本当は難しくないんだよ。「漢字に異体字セレクタを付けるとグリフを指定できます」って言ってるだけの図なんだから。
  • この真ん中の「E010B」が右では「E0110」に変化してるのは、どういう意味なんですか?
  • 誤植だね。
  • えっ?
  • 符号位置が変化するわけないじゃん。
  • ひどくないですか?
  • ひどいね。で、いちおう「E010B」が間違っていて「E0110」が正しいってことにしておこうか。そのためにわざわざ外字まで作ってるわけだし。
  • えっ?
  • 作字だね。


  • IVSの本の、IVSの図なのに、IVSを使ってないんですか?
  • 使ってないね。制作サイドの環境がIVSに対応してなかったのかも。
  • うーん。
  • 「9089 E0110」っていうのはHanyo-DenshiのIVSなので、これと同じ内容の図を、普通にIPAmj明朝でIVSを使って作ると、こんなかんじ。


  • あれれ? さっきの作字のとは、微妙に違いますよね?
  • そうなんだよね。くっつくか、くっつかないか。はねるか、はねないか。


  • こういう違いは無視してかまわない範囲のものなんですか?
  • ダメだね。
  • だろうと思いました……。
  • 作字の精度の問題もあるんだけど、それ以前に、作字しちゃダメなんだよ。IVSという枠組みはフォントと切り離せないんだから。Hanyo-Denshiのグリフを掲載するなら、画像を貼ってでもHanyo-Denshiフォントで表示するべき。


  • ところでふと気づいたんですけど、この図5-7って、異体字セレクタを付ける前の「邉」の字もIPAmj明朝と形が違いますよね。
  • 違うね。


  • それはかまわないんですか?
  • ダメだね。
  • だろうと思いました……。
  • これも作字なんだけどね。
  • えええっ?
  • まさかのダブル作字。
  • どういうことですか? 異体字セレクタを付ける前の、ただの「邉」ですよね? JISの第2水準あたりに入ってる「邉」ですよね? どうして作字しなきゃならないんですか?
  • 想像だけど、この図の原稿にMS明朝が使われてたんじゃないかな。
  • というと?
  • MS明朝の「邉」は、JISの例示(を参照している他のフォント)とは違ってて……。


  • ホントだー。
  • だもんで、がんばって原稿のMS明朝に似せて作字したんじゃないかと。


  • なんか、無意味に複雑なことになってますね……。
  • 作字しないで小塚明朝のデフォルトのままなら、少なくともIPAmj明朝との間に矛盾はなかったんだけど、MS明朝の「邉」のグリフ(を参照した作字)だと、Honyo-Denshiの「9089 E0119」のグリフと衝突*1


  • うわあ。
  • そんなこんなで、単純な図のはずが、よく見ると、外字をこねくりまわしてるせいでおかしなことになってて。
  • IVSで外字撲滅!っていう趣旨の本なのに……。
  • あやしい外字パラダイス。
  • あー。

*1:「ハ」の部分の2画目の反りの違いをどう見るかという問題もあるが、今回はそこはスルー。