小塚明朝のバージョンによる'nlck'サポートの違い

  • Adobe CS3に付属する「小塚明朝 Pro R」のバージョンは4.001。グリフ・セットはAdobe-Japan1-4でこれまでと変わらないが、新たに'nlck'などのOpenTypeフィーチャー・タグをサポートしている。「小塚明朝 Pro-VI R(Version 6.005)」の'nlck'テーブルがおかしいことについては以前に指摘した(「小塚明朝 Pro-VI」の'nlck'タグの謎)が、Adobe CS3に含まれるAcrobat 8では「小塚明朝 Pro-VI R」のバージョンは6.010となっている。また、「小塚明朝 Pro-VI R」には6.003というバージョンもある。
  • これら4種類の小塚明朝は、すべて異なった'nlck'テーブルを採用している。6.003はヒラギノと共通(http://d.hatena.ne.jp/works014/20070713)、6.005はモリサワPr5フォントと共通なので、以下、紛らわしさを減らすために、それぞれの'nlck'テーブルを「ヒラギノ式」(6.003)、「モリサワPr5式」(6.005)、「小塚4式」(4.001)、「新小塚VI式」(6.010)と呼ぶこととする。


  • 加えて小塚4式では、表外漢字字体表の備考欄のグリフが印刷標準グリフに置換される(下図biko欄が備考欄のグリフ。nlck欄がタグ適用後)。


  • そのようなわけで小塚4式は、ヒラギノ式と比較してより多くの印刷標準グリフをもたらすものであると言える。たとえば互換規準の29文字の略字に対して'nlck'タグを適用したとき、ヒラギノ式では置換される文字はないが、小塚4式では下図のような結果となる。NC(No Change)欄が適用前、nlck欄が適用後。'nlck'タグによって印刷標準グリフに置換された場合、水色地で示した。そうでない場合は、欄外にグレーで印刷標準グリフを示した。


  • 上図で印刷標準グリフに置換されているのは、すべて簡易慣用字体である。つまり、表外漢字字体表における「許容字体」である簡易慣用字体は印刷標準字体に置き換えられ、「非許容字体」のほうはそのまま残っているわけで、中途半端というか、非常にわかりにくい仕様だと言える。
  • と思ったのか、新小塚VI式では、簡易慣用字体、備考欄のグリフに加え、互換規準の29文字の略字すべてを印刷標準グリフに置換する仕様となっている。というわけで新小塚VI式の'nlck'は「印刷標準グリフへの置換率が高め」ではあるが、印刷標準グリフに置換可能なすべてのグリフが置換の対象となるわけではない。たとえば83入れ替え22組の第1水準側22文字に対して'nlck'タグを適用したとき、新小塚VI式(および小塚4式)では下図のような結果となる。NC欄が適用前、nlck欄が適用後。'nlck'タグによって印刷標準グリフに置換された場合、水色地で示した。そうでない場合は、欄外にグレーで印刷標準グリフを示した(「砿蕊砺」に対応する「礦蘂礪」は字体表外)。


  • 現状の'nlck'タグは、4種類あるテーブルのいずれにしても、決して使いやすいものではない。「テキスト全体に適用すれば印刷標準グリフに揃えてくれるタグ」があれば、それがいちばん便利だろう。ただ、それを作ろうとすると「異体字か別字か」の判断をしなければならない(たとえば「譁」は 印幸標準字体「嘩」の異体字として置換の対象とするのか、それとも別字としてそのまま残すか)。個人的には、このあたりの課題をクリアした上で、たとえば'nlc2'といったタグを新たに設けて「置換可能なものはすべて印刷標準グリフに」を実現する、というのがベストではないかと思う。フォントがバージョンアップするごとに'nlck'タグにおける「印刷標準グリフへの置換率」を少しずつ上げていけばいいというものではないだろう。同じCS3に付属するフォントに小塚4式と新小塚VI式が併存するのも不思議である。
  • テーブルに手を加えるということは、互換性を犠牲にするということである。小塚4式、新小塚VI式の非互換な'nlck'サポートは、いくらなんでもバタバタしすぎだと思う。もちろんモリサワPr5式(と呼んでいるが、このテーブルを定義したのはAdobeだと思う)には問題があるので何らかの手を打つ必要はあったのだろうが、単純に「ヒラギノ式のテーブルにもどす」でよかったのではないか。