なぜAppleカラー絵文字のプードルには眉毛があるのか

  • ここに2匹のプードルがいるんだけどね。
  • 間違い探しですか? ズバリ、左にだけ眉毛がありますね。


  • うん。眉毛があるほうが、iPhoneやLionに入ってる絵文字フォントのプードル。眉毛のないほうが、Unicodeのコードチャートに載ってるプードル。
  • えっ、どういうことですか?
  • そもそもUnicodeにケータイ絵文字を入れようって提案したのがGoogleAppleだからね。提案書のための絵文字をAppleが用意して、それがUnicodeに収録された。そのあとで、iPhone絵文字に含まれていなかった文字については、データを流用して絵文字フォントに追加したってことじゃないかな。
  • だからほとんど同じなんですね。でも、眉毛はどうなりました?
  • ケータイ絵文字をUnicodeに収録する過程では、いろいろあってさ。たとえば、日本の絵文字のマンガっぽさをめぐる戦いとか。ほら、アイルランド・ドイツ修正案って、覚えてる?
  • そうそう。そのアイルランドとドイツが提出した文書のなかに、こういう一節があるんだ。

We are convinced that a character named PIG or BEAR should be represented as generically as possible in the UCS, even if a Japanese telephone implementation may represent them as smiling disembodied heads. Whilst Japanese anime drawings may be quite suitable for some implementation environments, that style is too specific for generically-named characters.

PIGやBEARという名前の文字は、それが日本の電話ではカラダのないニコニコした顔で実装されているとしても、UCSではできる限り一般的な表現にすべきだと、我々は考えている。ある種の実装環境には日本のアニメ絵がぴったりかもしれないが、汎用的な名前を持った文字には、そういったスタイルは特殊すぎる。

  • うーん。言いたいことはわかる気がしますけど、ちょっとけんか腰ですか?
  • だね。ところがさ、事実としては、日本のケータイ絵文字のブタやクマのなかには、ニコニコしてるやつなんていないんだよ*1
  • えっ?
  • この図を見ればわかると思うけど、動物たちが笑ってるのは、むしろGoogle/Apple提案のデザインの傾向なんだよね。


  • ホントだあ。
  • 眉毛がある!
  • うん。こういう、眉毛があって笑ってる動物ってさ、つまりディズニーだよね。
  • おおっ。「日本のアニメ絵」として槍玉にあげられたのが、実は他でもないアメリカニゼーションの象徴たるディズニー・スタイルだった、と。
  • で、それからどういう応酬があったかはわからないんだけど、結局ブタとクマは今も、Unicodeのコードチャートで笑ってる。でも、流れ弾にでも当たったのか、眉毛は戦死した。


  • あらら。プードルとかも含めて、動物の眉毛は全部剃られちゃったんですか?
  • うん、全滅。というわけで、提案書の絵文字をそのまま実装したiPhoneやLionの絵文字にだけ、今も眉毛が残ってるわけだ*2


  • なるほど。ところで、ディズニーの図はないんですか?
  • ん?
  • Google/Apple提案の動物たちとディズニーのキャラクタを見比べられる図があったらわかりやすいかなーって。
  • 「MOUSE」対アレとか。
  • ない。

*1:多数派ではないが、日本のケータイ絵文字の動物たちのなかにも(ブタやクマ以外の例で)笑っているやつはいる。

*2:提案書の絵文字をそのまま実装したのは、Appleカラー絵文字のうちdocomo/au互換のモノクロ絵文字。