グリフ(glyph)という言葉の定義をめぐって
- 『基本 日本語活字見本集成 OpenType版』に含まれる「デジタル活字の基礎知識」では、小形さんが用語の定義を担当されているが、「グリフ」の定義がわたしの用語法と違っているので、そのあたりの事情について書いておこうと思う。
- JIS X 0208:1997は、「字形」を「字体を、手書き、印字、画面表示などによって実際に図形として実現したもの」、「字体」を「図形文字の図形表現としての形状についての抽象的概念」と定義している。
- 「グリフ」という用語は、「字形」的な意味で使われる場合と「字体」的な意味で使われる場合がある。以下、仮に前者を「字形派」、後者を「字体派」と呼ぶ。
- 『集成』518ページで、小形さんは以下のように記している。つまり、「字形派」の定義を採用している。
フォントにある文字の形そのものを「グリフ」と呼ぶ。
- 「字形派」の代表と言えるのはUnicodeだろう。Unicode Standard 4.0(5.0はまだ買っていない)の第2章(http://www.unicode.org/versions/Unicode4.0.0/ch02.pdf)15ページには、次のような記述がある(以下、英語の文献からの引用の場合、日本語は拙訳)。
Glyphs represent the shapes that characters can have when they are rendered or displayed.
グリフは、文字が描画あるいは表示されるときに持ちうる形状を表現する。
- また、Adobeもおそらく「字形派」である。「PDF Reference」sixth edition(http://www.adobe.com/devnet/pdf/pdf_reference.html)の388ページには、次のような記述がある。
A character is an abstract symbol, whereas a glyph is a specific graphical rendering of a character.
「文字」が抽象的な記号であるのに対して、「グリフ」は文字を具体的な形に描画したものである。
- 一方、「字体派」の典拠は、ISO/IEC 9541-1:1991である。その翻訳規格であるJIS X 4161:1993「フォント情報交換 第1部 体系」は、「グリフ」を次のように定義している。
個々のデザインの違いを除去した認知可能な抽象的図記号。
- というわけで、「字形派」「字体派」のいずれも間違いではない。で、なぜわたしが「字形派」ではなく「字体派」の定義を採用しているのかについても書くつもりだったが、長くなってきたのでその話は後日。