リュウミンのCID版とOTF版では漢字の形はどれくらい違うのか

  • CIDフォント版のリュウミンの字形は、JIS83の例示字体を参照して設計されたものである。一方、OpenTypeフォント版のリュウミンでは、標準の字形はAdobe-Japan1経由でJIS90の例示字体を参照したものとなっている。そしてOpenType版では、'jp83'タグによるグリフ置換が可能だ。
  • モリサワのサイトの「よくある質問」のページでは、「NewCIDをOpenTypeに置き換えたらどうなる?」という質問への回答の一部として、「JIS83年版からJIS90年版の変更」6例を挙げ、「上記は代表例で、6文字以外も数多くあります」という注釈を付けている(http://news.morisawa.co.jp/support/ts_otf3.html#22)。
  • 第1の素朴な問い。「6文字以外も数多くあります」の「数多く」って、何文字なのだろう。第2の素朴な問い。OpenType版の'jp83'字形(JIS83参照)とCID版の字形(JIS83参照)は、同じなのだろうか。
  • というわけで、'jp83'テーブルに含まれる229文字について、OpenType版の標準字形、'jp83'字形、CID版の字形を比較してみた(検証にはOpenTypeフォントの「リュウミン Pr5 R-KL」とCIDフォントの「リュウミン R-KL」を使用)。リュウミンのOpenType版では、必ずしもJIS90例示グリフに合わせる方向ではない微妙な改刻も随所に見られるが、今回は「Adobe-Japan1が区別している違いは区別する(そうでない違いは区別しない)」という方針で、それぞれの字形を「JIS83グリフかJIS90グリフか」のいずれかに分類した。なお、このエントリでは「グリフ」という語を「Adobe-Japan1が区別している文字の骨格」といった意味で、「字形」とは区別して用いている。
  • グループ1。OpenType版の標準(no change)字形はJIS90グリフ、'jp83'字形とCIDフォントの字形はJIS83グリフであるもの。最もシンプルなモデルを想定すると、229文字すべてがこのグループに分類されることとなるが、実際には「餌殻頑均埴遂像斐聾凛匕區喩囁惘懾攝擲敝晟枩楫檐氈氓渣滾漾燿瑟聟聳膵袞裘褫褻襪襯訝贏齎靱魍鯱」の45文字しかない。図は標準字形と'jp83'字形の比較。


  • グループ2。三者とも同じグリフであるもの。それなりにシンプルなモデルを想定すると、229文字のうちグループ1以外のすべてがこのグループに分類されることとなるが、実際にはそうではない。テキストで示せば「逢偉緯違厩衛延沿鉛翁芽雅害慨概敢貫巌帰軌窮傑穴健建鈷公購降罪姉謝邪収輯柔瞬舜楯松訟植職親据摂船総聡誕恥兆眺聴跳庭廷艇桃逃派排輩班頒悲扉緋誹貧父葺分噴憤粉紛蔽盆桝脈耶翼隣麟麗聯冓雙圍墫娶媾徘愽扨拏柧椰榧漑瓠磔稙窕縵羮翡聚聰腓膊菲蜚蠶裴遒逎鄰酖酘酥酳酲醢醯醪醴醺霽靠頌魘鯆鯡鵈鷏」の137文字。ざっと見たところ、このうち80文字強がJIS90グリフ、50文字強がJIS83グリフとなっている。
  • グループ3。OpenType版の標準字形とCIDフォントの字形がJIS90グリフ、'jp83'字形のみがJIS83グリフであるもの。229文字のうち、グループ1とグループ2以外のすべての文字がこのグループに分類されてくれれば話はそれほど複雑にならずに済むのだが、実際にはそうはならない。テキストで示せば「檎交更校硬絞考拷使史丈雰便捧吏湾傅嵎嶇巉巓搏甌癲礪禺糲絳臍蕕藕躑隘飃驅」の35文字。図は標準字形と'jp83'字形の比較。


  • グループ4。OpenType版の標準字形と'jp83'字形が共通であり、(Adobe-Japan1の基準で)CIDフォントとは異なるグリフであると考えられるもの。「姚弭橄珥琲緝聶贅躡鑷顳鼈」の12文字。このうち「琲」はCIDフォントの側がJIS90グリフ、これ以外の11文字はCIDフォントの側がJIS83グリフ。以下のリュウミンの図と小塚明朝の図を比較すると、「琲」についてだけリュウミンと小塚明朝で赤と青が逆になっているのがわかる。



  • すでに述べたように、今回はすべての字形を「JIS83グリフかJIS90グリフか」のいずれかに分類したので、「三者とも異なる」というグループはない。が、微妙な例が存在する。CIDフォントの「囁」と「攝」は、JIS90グリフとJIS83グリフの両方の特徴を有する。今回は最も目立つと思われる部分(上の耳)に着目し、これらをJIS83グリフとして扱った。


  • 「遂」の'jp83'字形もまた、JIS90グリフとJIS83グリフの中間的な特徴を有するが、モリサワがこれを'jp83'用の字形として標準字形と区別していることを尊重し、JIS83グリフとして扱った。追記:「遂」のJIS83規格票例示字形は、小塚明朝の'jp83'字形よりもリュウミンの'jp83'字形に近い。


  • リュウミンでは部分字形「八」は筆押さえの付くデザインで統一され、JIS83グリフ(筆押さえあり)とJIS90グリフ(筆押さえなし)を区別しない実装となっている。しかしなぜか「雰」に限って、'jp83'では筆おさえのやや長い字形に置換される。わたしの感覚では、これらはいずれもJIS83グリフに見えるが、「モリサワがわざわざ区別していること」を尊重し、今回は筆押さえの短い標準字形とCIDフォントの字形をJIS90グリフとして扱った。


  • ここで最初の問いに戻るなら、('jp83'テーブルに含まれる229文字の範囲内で)OpenType版とCID版でグリフが異なるのは、グループ1とグループ4だから、足して57文字。おそらくここにはモリサワが「JIS83年版からJIS90年版の変更」を意図したすべての例が含まれるが、それ以外の例も含まれている(たとえばJIS90グリフからJIS83グリフへ変更された「琲」など)。
  • また、OpenType版の'jp83'字形とCID版の字形を比較した場合、「グリフの差」があると考えられる例は、グループ3とグループ4だから、足して42文字。