「小塚明朝 Pro-VI」の'nlck'タグの謎

  • OpenTypeフォントのフィーチャー・タグ'nlck'は、「一般の社会生活において表外漢字を使用する場合の字体選択のよりどころ」を示した国語審議会(National Language Committee Council)答申「表外漢字字体表(http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=list&id=1000000518&clc=1000000500)」のグリフを呼び出すものである。追記:コメント欄でのご指摘により「Committee」を「Council」に訂正。
  • 'nlck'用のグリフ集合は、表外漢字字体表のグリフ(印刷標準字体および簡易慣用字体)のうち「JIS X 0213:2000の例示グリフとは違うもの」を抽出したものであり、以下の172文字であると思われる(「ヒラギノ丸ゴ Pro」で表示)。


  • が、Adobe-Japan1-6フォントである「小塚明朝 Pro-VI」(KozMinProVI-Regular.otf)で'nlck'用のグリフ集合を表示してみると、以下のように196文字ある。


  • これをヒラギノの172文字と比較すると、25文字プラス、1文字マイナスとなっている(下図。赤字がマイナス分)。


  • 表外漢字字体表には、「印刷標準字体と入れ替えて使用しても基本的には支障ないと判断し得る印刷文字字体」として簡易慣用字体22文字が掲載されている。小塚Pro-VIの'nlck'は、どうもこれ(下図)をサポートしようとしているらしい。


  • しかし実は、簡易慣用字体はヒラギノの172文字ですでにサポートされている。'nlck'用のグリフ集合は、JIS X 0213:2000の例示グリフとの「違い」に焦点を当てたものなのだから、簡易慣用字体22文字のなかで必要なのは、上図で赤で示した「芦」の異体字(CID=7961)だけであり、これは172文字に含まれている。
  • ところが小塚Pro-VIでは、必要のない文字をいくつも'nlck'用のグリフ集合に含めた上で、必要なCID=7961を外している(「1文字マイナス」分)。この結果、テキストに'nlck'タグを(当然、略字が印刷標準字体に置き換えられることを期待して)適用した際、(逆に)印刷標準字体の一部が簡易慣用字体に変わってしまう。一見してわかるとおり、この効果はかなり破壊的である(下図)。


  • 表外漢字字体表には「備考」欄があり、そこには印刷標準字体欄に掲げられた字形と「個別デザイン差」の関係にある異体字が示されている。小塚Pro-VIの'nlck'は、これ(下図)もサポートしようとしているらしい。


  • 小塚Pro-VIの'nlck'における「簡易慣用字体のサポート」が完全に謎であるのに対して、「備考欄の異体字のサポート」は一応「JIS X 0213:2000の例示グリフとは違うもの」を拾っている点で、やや理解しやすい。しかし、テキストに'nlck'タグを適用した際、「印刷標準」欄のグリフを押しのけて「備考」欄のグリフが呼び出されるという仕様にどんな意味があるのか疑問である。
  • 小塚Pro-VIでは'jp04'タグも変だが、これについては後日。