ヒラギノ角ゴStdNで追加された漢字140文字について
- Mac OS X 10.5 Leopardに付属するヒラギノ角ゴStdNでは、Adobe-Japan1-3の範囲を超えて144のグリフが追加されている。今回は、このうち漢字140文字について見ていこうと思う。
- 「N付き」フォントは「JIS X 0213:2004対応」と説明されることが多い。しかし、ヒラギノStdNで追加された漢字140文字のうち、JIS X 0213:2004の例示字形変更に追随した追加は、下図紫地のグリフのみである。では、他の追加グリフは何なのか。
- あらかじめ結論を言ってしまうと、ヒラギノStdNにおける漢字グリフの追加は、表外漢字字体表の印刷標準字体を参照した'nlck'グリフのフルサポート、人名用漢字グリフのフルサポート、およびAdobe-Japan1-5(以降の)フォントとのマッピングの統一を意図したものであると思われる。
- JIS X 0213:2004が例示字形を変更したのは168文字。Adobe-Japan1は、このうち8文字の微細な変更を無視するので、サポートの対象となるのは160文字(下図、CID順)。そのうち110文字は'jp78'グリフあるいは'expt'グリフとしてAdobe-Japan1-3の範囲内に収録されており(下図グレー文字)、追加分は50文字(紫地)となる。なお、これ以降の図にはStdNの範囲外のグリフが必要となる場合もあるため、ヒラギノ角ゴProを用いることとするが、文字の背景色は最初の図と連動している。
- 下図緑地の4文字は、'jp04'グリフでありながら「JIS X 0213:2004が例示字形を変更した文字」ではないもの。詳しくは「Pr6フォントとPr6Nフォントはどこが違うのか」を参照。「N付き」フォントでは下図緑地の4文字が、「Nなし」フォントでは下図右列の4文字がデフォルトの(Unicodeの符号と直接対応する)グリフとなる。CID=13369をブルー地として区別した理由については後述。
- JIS X 0213:2004で追加された漢字10文字のうち4文字(下図グレー文字)は、StdフォントのレパートリであるAdobe-Japan1-3の範囲内に含まれている。StdNでは、残りの6文字(下図ピンク地)が追加されている。StdNは、JIS X 0213をフルサポートするものではない。にもかかわらず、下図ピンク地の6文字が追加されていることから、印刷標準字体を参照した'nlck'グリフをフルサポートしようとする意図が読み取れる。
- 人名用漢字をサポートするために追加された漢字は、すべて常用漢字の異体字(旧字体)であり、後述する例外(CID=20303)を除いてCID=13320からCID=13402の康煕別掲字ブロックに収録されている。下図は、康煕別掲字ブロックに含まれるグリフをCID順に並べたもの。ブルー地のグリフがStdN追加分。
- 上図グレー文字は、常用漢字表康煕別掲字ではあるが人名用漢字ではないもの。上図赤字は、常用漢字表康煕別掲字のグリフ(下図赤字)と人名用漢字のグリフ(下図黒字)が異なるもの。上図オレンジ字については後述。
- 康煕別掲字ブロックの図において黄色字で示した「懲の旧字体」は、CID=13369。同じく「懲の旧字体」であるCID=21072(ヒラギノの実装ではCID=13369と同じ字形)がStdNで追加されていることについては、すでに「緑地の図」で見たとおり。Adobe-Japan1のテクニカル・ノート(小塚明朝)では、両者は下図のように区別されている。
- そして、人名用漢字(戸籍法施行規則別表第二)の字形は、CID=21072のほうに近い。ということは、StdNにおけるCID=13369の追加は不要なのではないか。もちろん、グリフの数が1つ多いからといって、何ら不都合はないけれど。
- JIS X 0213:2000をサポートしたのは、Adobe-Japan1-5。この際、主としてJIS X 0213の例示グリフをデフォルトとする方向で、マッピングの変更が行われた。このうち「旧マッピング」がAdobe-Japan1-3の範囲内であり「新マッピング」がAdobe-Japan1-3の範囲外である例について、StdNでは「新マッピング」への変更を行っている。
- 細かく言うと、Adobe-Japan1-5のマッピング変更は、AppleによるAPGS(Apple Publishing Glyph Set)とAdobeによる(狭義の)Adobe-Japan1-5の2段階に分けて行われた。下図は、APGSにおける漢字についてのマッピング変更。うち、オレンジ地のものがStdN追加分。
- 下図は、AdobeによるAdobe-Japan1-5のマッピング変更。新マッピングはCID=20299からCID=20316までのブロックを形成している。うち、オレンジ地のものがStdN追加分。このブロックのグリフは、基本的に「Appleが無視した差異」を表現するものであるため、ヒラギノの実装では、変更前・変更後の字形に違いが見られない例が多い。
- 上図における「旧マッピング」のうちCID=13401は、Adobe-Japan1-3の範囲外であるにもかかわらず、これに対する「新マッピング」のCID=21072が、StdNにおける追加の対象となっている。この追加は、人名用漢字サポートのため。ヒラギノの実装ではCID=13401とCID=20303の字形は同じだが、Adobe-Japan1のテクニカル・ノート(小塚明朝)では、両者は下図のように区別されており、人名用漢字(戸籍法施行規則別表第二)の字形は、CID=21072のほうに近い。