Macの外字の歴史を整理してみる

  • 1989年、Apple漢字Talk 6をリリースし、また、初の日本語対応PostScriptプリンタであるApple LaserWriter II NTX-Jを発売した。NTX-Jに搭載されていた日本語フォントは、モリサワリュウミンL-KLと中ゴシックBBB。
  • プリンタ・フォントであるリュウミンL-KLと中ゴシックBBBの文字セットとエンコーディングは、Adobeによって83pv-RKSJ(以下単に「83pv」と呼ぶ)*1として定義されており、その外字部分(下図・左)は、NECのPC98外字のサブセットとなっていた。


  • リュウミンL-KLと中ゴシックBBBに対応するスクリーン・フォントとしてAppleから提供されたのが、細明朝体と中ゴシック体。漢字Talk 6.0.7でForeign System Fontをインストールすると、上図青地部分を画面表示することができた。
  • 上図ピンク地部分の半角文字が83pvに含まれることは、あまり知られていない。スクリーン・フォントである細明朝体と中ゴシック体で画面表示することができなかったからである。一般にAdobeの文字セットは、「あるプラットフォームの実装」を参照して定義されるが、83pvに関しては、外字部分がMacの実装(細明朝体と中ゴシック体)と異なっていた点が興味深い。
  • 1992年、AppleTrueTypeフォントを搭載した漢字Talk 7.1をリリースした。Apple標準システム外字が実装されたのは、このバージョンから。システム・フォントであるOsakaはもちろん、細明朝体と中ゴシック体も含めて、この新しい外字体系(上図・右)に統一された。Apple標準システム外字を含むMacの文字セットとエンコーディングを参照してAdobeが定義したのが、90pv-RKSJ(以下単に「90pv」と呼ぶ)*2
  • おそらくAppleは、漢字Talk 6.0.7におけるForeign System Fontを利用した83pv外字の出力を、あくまで「裏技」的なものだと認識していたのだろう。しかし、漢字Talk 7.1における細明朝体と中ゴシック体の変更は結果として失敗し、漢字Talk 7.1アップデート2.0によって、その文字セットとエンコーディングは「Foreign System Fontをインストールした漢字Talk 6.0.7」と同じものに戻されることとなった。ここに「83pvと90pvの並立の時代」が始まる。
  • 漢字Talk 7.1からMac OS 9までは、TrueTypeフォントリュウミンライト-KLと中ゴシックBBB(いずれも90pv)が付属したことも、混乱の原因となった。PostScriptフォントを利用する仕事の現場では、「丸付き数字は9区ではなく13区のを使え」とか「Macを買ったらリュウミンライト-KLは1秒でも早くゴミ箱に捨てる者こそが真のプロ」とか言われたり言われなかったりした。
  • Mac OS Xでは、83pvフォントであるヒラギノがシステム・フォントとして採用された。Mac OS 9時代のシステム・フォントであったOsakaは、90pvのままヒラギノと共存している。Mac OS Xの場合、テキスト処理においてはUnicodeが基本となるので、83pv/90pvの区別が問題となることはそれほど多くはないが、問題が完全に解消したわけではない。

*1:83pv-RKSJの「83pv」は文字セットを、「RKSJ」はエンコーディングを表すものだが、「83pv」は「RKSJ」以外と組み合わせて用いられることはないので、文字セットとエンコーディングをまとめて「83pv」と呼ぶ。

*2:83pvや90pvは、PostScriptフォント名の一部である。したがってPostScriptフォントを指して「83pvフォント」と呼ぶのは何の問題もないのだが、たとえば(フォント名に「90pv」を含むわけでもない)Osakaを「90pvフォント」と呼ぶことには抵抗を感じないでもない。しかし、「83pvフォント」と「Apple標準システム外字フォント」という対比も収まりが悪いので、TrueTypeフォントも含めて「90pvフォント」という呼称で通すこととする。