Adobe-Japan1とInDesignの二重引用符

  • 似たようなグリフが数多く入っているAdobe-Japan1のなかでも、二重引用符の仲間はかなり多く、InDesignの字形パネルなどを見ただけでは、その全容を把握するのが難しい。たとえば下図では26のグリフが表示されている。これだけでもややこしいが、実際はもっと多い。図に用いたフォントはリュウミンPr6(以下同)。


  • そこで下図では、二重引用符用のすべてのグリフを、体系的に整理しようと試みた。まず、起こしと受けでグリフが異なるグループ(上)と共通のグループ(下)に大別し、次にプロポーショナル、イタリック、全角、半角に分類した。黄色地は横組み(地の幅はグリフの幅を表す)、それ以外は縦組み用のグリフ。


  • グレー地の縦組み用グリフは、全グリフを網羅するために入れておいたが、これらは一部の処理系が必要とする縦組み用の回転済みグリフであり、ユーザは通常意識する必要がない(このエントリでも、以後無視する)。緑地のCID+7956とCID+7957は縦組み置換用。水色地のグリフは、縦組み用のグリフとして手動で入力して使うためのものであると思われる。緑地および水色地のグリフについては、上図ではやや強引に1つの図にまとめようとしている分、わかりにくい扱いとなっているので、次項以降で詳説する。
  • 起こしと受けでグリフが異なるグループでは、全角・横組み用の二重引用符には、下図黄色地の3つのペアが存在する。また、全角・縦組み用の二重引用符には、下図緑地および水色地の3つのペアが存在する。


  • 全角・横組み用の3つのペアは、縦組みにした場合、いずれもチョンチョン型のペア(CID+7956とCID+7957)に置換される(下図)。


  • 自動置換では用いられることのない縦組み用の2つのペアは、使いたければ手動で入力することとなるが、字形パネルからダブルクリックで入力したCID+8280は、縦組みのテキスト中では右に90度回転してしまう(下図)。なぜかと言うと、CID+8280の親字がU+201E DOUBLE LOW-9 QUOTATION MARKとなっているため(後述するが、縦組みの際に自動回転するか否かは、CIDではなくUnicodeの符号位置に依存する)。


  • 上図水色地のグリフは出自があいまいであり、Unicodeとのマッピングを策定する際、CID+8280は見た目が似ているU+201E(下図)の全角グリフと位置づけられたのだろう。


  • しかし、U+201Eの全角グリフであれば「左寄り」であるはずなのにCID+8280は「右寄り」である点、CID的に近接したCID+8277、CID+8278、CID+8279と組み合わせた使い道などを考慮すると、このマッピングが当を得ているとは言い難い。
  • ただしInDesignでは、CID+8277などaaltで表現されているグリフの親字の選定は不吉な機械的ルール(1つの'aalt'グループ中に、直接Unicode値と対応している文字が複数あるとき、CID値が最も大きいものが親字となる)に従ったものであり、これら(CID+8280以外の水色地のグリフ)が親字であるU+FF02(下図)の属性により縦組みで回転しないのは、(幸運な)偶然に過ぎないと言えないこともない。


  • よく知られている問題だが、InDesignで全角以外の引用符を縦組みにするとグリフが正しく回転しない(下図)。


  • これはInDesignが、「縦組み置換」においてはCIDを参照しているにもかかわらず、「縦組み回転」においてはUnicodeの符号位置を参照しているためだと思われる。たとえば下図はCID+108(プロポーショナルの左二重引用符)について見たものだが、CIDベースの縦組み置換属性とUnicodeベースの縦組み回転属性がかみ合っておらず、縦組みでは(「置換なし」なら「回転あり」であるべきところが)「置換なし」かつ「回転なし」となってしまう(この問題については「InDesignにおける引用符の謎の挙動についての文字コード的なまとめ」でも言及したことがある)。


  • これまで見てきた起こしと受けでグリフが異なるグループでは、CIDは単一の親字と対応する。一方、起こしと受けで同じグリフを用いるグループでは、それぞれのCIDの親字となるUnicodeの符号位置は、U+0022、U+FF02のいずれかである。前項で述べたように、InDesignでは縦組みで回転するか否かはUnicodeの符号位置に依存するため、横組みと縦組みのにおける各グリフの体裁は、下図のようになる。


  • 今回取り上げた二重引用符の文字クラスは、InDesignでは「(始め/終わり)括弧類」「欧文用文字」「その他の和字」のいずれかとなる。


  • InDesignの「環境設定:組版」で「CIDベースの文字組みを使用」をオンにした場合、各グリフの文字クラスは下図のようになる。紫地は「括弧類」、緑地は「欧文用文字」、グレー地は「その他の和字」。


  • 「CIDベースの文字組みを使用」をオフにした場合の文字クラスは、下図のとおり。オンの場合と文字クラスが異なるものについては、CIDを赤字とした。また、親字によって文字クラスが変わってくるグリフは、CIDを青字で示した(親字がU+0022なら「欧文用文字」、U+FF02なら「その他の和字」)。